自分の周りには「この人話長いな…」とか「自分のことしか話さんやん…」と感想をついつい抱いてしまうくらい自分語りが好きな人がいる。しかし冷静に振り返って見ると案外ブーメランだったりするのだ。自分が書店をうろつきながら本書のタイトルに惹かれたのは、そのせいかも知れない。

本記事のサマリー:
- 自分のことを話す前、にもっとやるべきことがあるよ
- 本書の内容を全員がインプットしたら億劫な世界線になるのでは
- 「自分のことを話さない」を実験的にやってみると面白そうだよね
読んだ本
- タイトル:自分のことは話すな
- 著者:吉原珠央
ざっくり内容
本書はぱっと見てもなかなか強い言葉でインパクトがあるタイトルである。そのため、タイトルだけ見て「あなたの話なんて誰も興味ないから、金輪際自分語りなんかするんじゃねぇ」という説教本のような内容であることを想定してしまう人がいるのではないのだろうか。実はそんなことはない。
また、本書の内容は単に「会話を弾ませるための話術のエッセンス」というわけでもない。本書は、我々が日常的にする会話の価値を大いに高めてくれる本なのだ。普段何気なくする雑談も、ちょっとした余計な話も確かに楽しいものである。というか、比率を考えると自分はそっちの方がメインだったかも知れない。でも、本当にしたいのはそんな中身のない話だろうか。
思い返してみると、おそらく自身の周りには特殊なスキルを持っていたり、自分にはない面白い経験をした人がたくさんいるだろう。そんな凄い人たちから、彼らの生き方、考え方を学んで吸収したいと思うのは至極当然な考えである。そんな時、自分がするべきなのは天気の話や自分の苦労話だろうか?恐らくそんなことではないだろう。雑談や自分語りというのは、度が過ぎると相手から学ぶ時間を大いに削る要因となる悪玉になりうる。
もっと厄介なことがある。普段の会話の中で相手に同じような何気ない話しかしないと、いつしかそれがテンプレートとして当たり前になる。すると相手にはいつしか「この人中身のない話しかせんな…」という思考が芽生える。これはそのうち「テンプレ話しかしてこないし、この人わたしに興味ないのかな。」という思考に変化してしまう。そうなってしまうと、いざ相手から特別な話を引き出そうとする際、自分の魅力や熱意が伝わらなくなってしまう。それは非常にもったいないことなのだ。本書では、そんな問題提起によって普段の会話に対する危機感にまず気付かされ、それらに対するハウツーを伝授してくれる貴重な内容になっている。
感想云々
本書で語られているハウツーは、今日からでも実践ができる有益な情報が盛りだくさんである。これはバキバキコミュ障ド陰キャのエンジニア(自分)にとって本書はかなりありがたい存在だったので、やはり手にとって良かったと思っている。
ところで読み進めつつ感じたことだが、「本書の内容やノウハウをやがて周りが集団免疫的に獲得すると、その組織はいったいどうなってしまうのだろうか」という近い将来に対する疑問が無くもない。本書でも若干触れられているが、その人自身が話す内容は、相手が求めていない話である可能性が高いのだ。そういう内容を一旦知ってしまうと、「自分の発言は果たして価値があるのだろうか?」と考えるステップが入ってしまい、発言すること自体が億劫になってしまいそうである(自分だけだろうか)。そうなると、お互いに質問に徹するようになり、やがて「どちらから先に話すか」みたいな、よく分からない駆け引きが始まる気がしてならない。(ただでさえ元からそういう風潮のある日本人であるし…)本書の内容をインプットした上で、それが枷とならない工夫が必要なのだろう。
もうひとつ感じるのは、こういうハウツーを知ってしまうと、「会話の質をあげよう」となる以前に、単に実験的に「試してみたい」というマインドになることである。本書に書かれている内容は、振り返ってみれば確かに基本的なことではある。しかし、こういう基本的なスキルを完璧に習得しているのは、著者かラジオパーソナリティのような業界の人くらいだろうと思う。そんな業界の人とまではいかないが、自身の周りには恐らく話すことにおいてユニークな人がいるのではないだろうか。それこそ、常日頃から立て板に水どころか立て板をとっぱらってしまって水の自由落下さながらに喋り倒す人や、普段は寡黙を極めるがひとたびスイッチがはいると知識をマシンガンのように暴発させるような人とかである。それらの人たちに対し、身につけた自分の話術を少し意識的に変えてみることで、引き出す内容も多かれ少なかれ変わってくることが実感できるのだ。相手からの本質を引き出すのには時間がかかるが、そういう変化に対する興味やワクワクを得るだけでも、本書を読んだ成果となるのではないだろうか。
終わりに
今日SNSが凄い勢いで発展しているが、それでもベースになるのはリアルでのコミュニケーションであって、今後も簡単には廃れることはないだろうと思う。時代もあってリアルで人とあう機会が減ったが、その間にこういうノウハウを身に着けて力を溜めておくのは悪くないかもしれない。
それでは。