野鳥マスターへの道 | 決定版 見分け方と鳴き声 野鳥図鑑350 #58

 半年前くらいに思い切ってデジタル一眼を買った。その主目的は昆虫を撮るためだ。人間の眼はよくできていると思うのだが、見方によってはほぼ単焦点のレンズなのでズームができない。しかし昆虫の色や構造をより詳しく観察するには、より表面を拡大して捉える必要がある。その一助として、デジタル一眼を記録のできる超超超高ルーペ的な意味合いで買ったのだ。

カメラを手に入れて意気揚々と自然を散策していると、次にどうしても気になってくるのは鳥たちの声だ。カラスとかスズメとかツバメくらいしか瞬時に判別できない身としては、聞こえてくる鳴き声の持ち主も同定してやりたくなる。自分の知識の乏しさに半ばイライラしながら購入したのが本書だ。図鑑を舐め回すように読むのは超久々。やっぱり図鑑はどちゃくそ面白いのだということに、この歳になって改めて気がついた。

読んだ本

  • タイトル:決定版 見分け方と鳴き声 野鳥図鑑350
  • 著者:植村慎吾

感想云々

読み物として面白い図鑑

 図鑑というととにかく情報量が膨大で、すべての情報に目を通すのはしんどそうという先入観がある。そして掲載されている生き物の説明が淡々となされているのが従来の図鑑というものだろう。だが、本書はその退屈さを見事にはねのけられている気がする。本書に載っているのは写真、分類、生息地、特定のエリアに(その鳥が)いる時期などの情報がある。ここまでは従来の図鑑と共通である。だがその鳥に関する概要説明の面白さが従来の図鑑との違いである。その鳥の特徴を淡々と述べるのではなくて、最新の研究によって明らかになった知識がユニークに散りばめられているのである。

その他にも概要欄では「(キジは)自分の保護色に自信があるのか、人が気づかずにすぐ近くまで近づいても逃げずに頑張っている」とか「(コチドリは)親鳥が巣から離れ、しばらく歩いた先で警戒声を上げながら飛び立つので、そんなときは早くその場から離れよう。」とか、明らかにフィールドワークで手に入れたであろう内容が多く載せられている。それらの知識が載せられているお陰で、図鑑が途端にただ調べて終わりのものではなくて、読んで楽しむためのものに変わるのである。

適度な情報量

 知識に加え、収録されている情報量も個人的はちょうど良かった。おそらく鳥一種類の情報に目を通すのに3分もかからない程度に情報量を制御してくれている。そのため飽きることなく、次の鳥へと興味を移しながら読み進めることができるだろう。

少し思ったのが、このくらいのちょうどいい情報量ならばカメラの機能としても欲しいということだ。今やカメラはただ対象物をトラッキングするのではなくて、対象物がなんなのか(鳥なのか、動物なのか)判別できるようになっている。カメラ界隈に関する情報があまりなかった自分としてはそれだけでも進化が凄いと感じる。アホほどニッチな需要だと理解しているが、そのトラッキング情報にさらに付加価値が出てきたら素敵だなと思う。よくポケモン図鑑で対象にカメラ(というかあれは別のセンサ?)を向けると対象の名前、種族、その対象の概要を30秒くらいで(相手に聞こえない音量で)伝えてくれる。個人的にはデジタル一眼にもあれができるようになって欲しい。

今はスマホアプリがあるので手元にアプリを用意しておいて、そのアプリ経由またはスマホ本体のカメラ機能で対象を撮影すれば、たちまちそれが何の鳥なのかが分かるようになっている。ただのウォッチング目的の人間ならばそれでも問題ないとは思う。でも常にファインダーの中で対象を捉えておきたい人間にとっては、同時にできたほうがありがたいのでは?とも思ってしまうのだ(デバイス入れ替える間に鳥がいなくなってしまいそうだし…)。過不足なく情報が織り込まれているすばらしい図鑑だからこそ、もっとデジタルデバイスとの色々な連携があってもいいよな、と色々思考を巡らせてしまう。まぁ、もう既に実現しているのかもしれないけど。

鳴き声が貴重な情報源

 本書を読んでいざフィールドに出ると改めて気づきがある。それは鳥を同定しようと思った時、視覚で捉えられる情報よりも鳴き声等の音の情報の方が貴重なデータだということだ(え、もしかして常識…?)。というのも個人的に、種によっては見た目が似過ぎていて違いがほぼ分からないことがあるのだ。例えば素人目には遠巻きだとハシブトガラスとハシボソガラスの違いが分からない。しかしそれぞれが「カーカー」と鳴くか「ガーガー」と鳴くかという違いを知っていれば、あまり苦労せずに区別ができるだろう。

音の情報がより大事というのは昆虫の同定ばかりやっていると中々気づくことができない。見た目がそもそも美しくて観察が楽しい鳥であるが、視覚情報よりもまずは音の情報さえ完璧にインプットしていれば、フィールドワークでの同定はなんとかなるのではないかと思った次第である。だって例え望遠を使おうが何しようが、ちょっとでも近づくとすぐ逃げるんだもの。奴ら。

終わりに

 本書を読んだあとでカメラを持って自然に出かけると、気がつけば鳥の声が聞こえてこないかと耳を欹てている自分がいる。公園や川辺に行ったときのマインドが変わっている。鳴き声を頼りに鳥を探して写真に収め、その鳥が何者なのかを図鑑で調べて知識を深めていく。知らないことだらけなのでそれらの知識に感心して別の鳥にも興味が再び湧いていく。そしてまた鳥を探して出かけるというルーティーン。いや楽しすぎちゃうかこれ!!!


それでは。

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