実は普段新書にはあまり手をつけないのだが。著者が著者なだけに、思わず興味を引いて手にとってしまった。羽生善治氏は言わずとしれた将棋のトッププロ棋士。そんな将棋棋士が書く文章は無駄がなく素直で、内容もスッと入ってくるのが印象的である。

本記事のサマリー:
- 直感は後天的なもの
- 将棋でいう直感って、日常でも役立ちそうだよね
- AIにも実は弱点があるよ
読んだ本
- タイトル:直感力
- 著者:羽生善治
感想云々
人生の経験によって磨かれる「直感」
直感は決して先天的なものではない。まずこの本を読んで驚いたのは、直感は磨くことができるということだ。自分は直感というのは人々が生まれつき持っているような、ある種才能のようなものであると思っていた。ところが羽生氏によれば、直感力は生きていく中で多様な価値観を持ち、経験を積み重ねていくことで磨いていくものなのだとか。
ただし厄介なことに、直感力というのは身につける方法は一通りではなく、意識的に身につけられるものでもないらしい。そんな直感力を羽生氏がどうやって会得したのか。本書にはそのエッセンスが詰め込まれている。
人生に生かせる「直感」
将棋の棋士はある程度の時間を費やせば100手、1000手と読むことができるようになると言われる。でも時間を費やしたからといって、その手が必ずしもいい手であるとは限らないんだとか。むしろ短時間でパッと思いついた手が妙手だったりする。
様々な手は思い浮かんでいるのに、そこから先の決断がうまくいかない…そんなときに直感力があれば、バッサリと見切って決断することができるようになるのだ。これって、将棋の世界だけでなく普段の生活にだって活用できると思わないだろうか?
将棋の対局と違って、自分があらゆる選択肢からより限られた時間で決断を迫られる機会が少なからずある。そんな時にも選択を誤って後悔しないように、人生経験に裏付けられた直観力が必要であると感じた。
人間の強みである「直感」
近年、将棋界や囲碁界をはじめとして話題になっている「AI」の存在。そんなAI時代に突入した現在、この「直感力」というのは今までよりも浮き彫りになってくるテーマだと思う。自分は囲碁が趣味でよく打つのだが、将棋に加え、囲碁の世界でもこんなに短期間でAIが人間を凌ぐようになってきたのはビックリした。
少し余談になるが、もはや人間を超えてしまったように思えるAIにも、実は弱点があるそうだ。それはAIの「消費電力」である。人間はなにかを考える時、エネルギーとしておよそ21ワットを消費する。対してAI(アルファ碁)の消費電力は25万ワット。人間の約1万2千人分ということになる。これはAIの技術がまだ発展途上ということもあるが、むしろこのAIと互角の勝負ができている人間の力がすごいと評価すべきではないだろうか?
人間がAIに勝っていると思える点として、消費電力の少なさに加え、この直感力が挙げられると思う。この直感力は生物特有のものであり、さらに不安定な要素が積み重なってようやく得るものである。そのため、機械でこれを再現するのは一筋縄ではいかないだろう。
直感により得られた結果に対する説明はできても、直感の正体はまだまだ不透明。この特殊で不安定な要素を持ち合わせていることが、人間の強みでもあり、魅力でもあると考える。
終わりに
将棋でも囲碁でもAIにはほぼ勝てなくなってしまったが、それでも棋士同士の対局はなくなることはない。それは様々な不安定要素を持つ人間同士の対局が魅力的だからだ。AIが台頭してきた今、我々はより「人間」という存在に焦点を当てるようになっていくだろう。
それでは。