ようやくジブリパーク

 いつだったか、「ディズニーは『いらっしゃい、ようこそ』と迎えてくれ、ジブリは『おかえり』と迎えてくれる」という刺激的なコメントを見て以来、自分の中でジブリというジャンルに対する見方が幼少期と大きく変わっている。ディズニーを味が一発で分かる甘いショートケーキだとするならば、ジブリはビーフジャーキーのようなもの。初見でもおいしいが、長く楽しめば楽しむほどその魅力が分かってくるコンテンツだと思うのだ。

「ディズニーランドやUSJは存在しているのに、なんでジブリのテーマパークはないんや」と思っていた矢先、ジブリパークができたのが約2年前。この度ようやく行くことができた。もともとグルメに強いエリアでランドマークが充実した今、もはや愛知に弱点なんて存在しないんじゃないだろうか?


※以下、ネタバレ注意

ジブリの大倉庫

 ジブリパークは全体を見渡せば、正直まだまだ開拓中といったところだ。ジブリパークができてからまだ2年しか経っていないのだから、仕方のないことだろう。「少し物足りないな…」と思う反面、黎明期に足を運んだという古参アピールができるので、それはそれで良い(思い返せばUSJもそうだった)。

千葉に身を置いていた時代はよくディズニーランドに行ったものだが、素人目ながら、どのアトラクションも王道オブ王道を貫いてつくられている印象を受けた。一方ジブリ好きなんてのは「なんでそこまで知ってるんや…」と言いたくなるようなオタク気質の人が多いのだから、もっとマニアックな領域を攻めても良さそうなものだ(いや、これはDオタにだって言えることか…)。

 「まだまだ開拓中」と前述したが、ジブリの大倉庫の中はすでに展示が充実しており満足感が高い。その気になれば、一日をこの中で過ごすことだって可能だろう。大倉庫内では各映画のワンシーンが再現されており、自分も映画の登場人物の一人となって絵の中に溶け込むことができる。電車に乗ってカオナシの隣に座ることも、ぽんぽこの狸会議に出ることも、落ちてくるシータのことを受け止めてやることもわけないのだ。ジブリ好きにはたまらない。それにしても、題材は色々あれど再現されたいずれの展示を見ても「あ、あのシーンだな、懐かしい」とほぼ一発で分かってしまうのが凄い。それほどに自分は長い時間をかけて刷り込まれてきたのだなと感じるのだ。

 大倉庫の中で一番唸ったのはアリエッティのエリアかも知れない。他の展示に比べて何倍も時間をかけたのがすぐ分かるほど、力の入れ方が一目瞭然なのだ。普段我々が何気なく使っているどんなに小さな物も、アリエッティにしてみれば巨大なツールであり、インテリアである。アリエッティは小さな少女だが、あるいは彼女以下のサイズの虫のように体が小さくなると世界はどんな風に見えるのか。そのスケール感は実際にその世界に溶け込み、実物で体験してみないと気が付かないだろう。これぞジブリパークの醍醐味。

どんどこ森

 先に言っておくが、ジブリパークに訪れる際のチケットはプレミアム一択だ。今回各エリアに赴くたびに、プレミアムを入手できなかったことを非常に悔いた。どんどこ森にしたってそうだ。一時期は親の顔よりも見たんじゃないかと自分の中で話題の、さつきとメイの暮らした家が課金制だとは…。万博の名残である庭園を横目に赴いたはいいものの、軽めのトレッキングを経て山頂のトトロに出会うだけで終わってしまうエリアとなった(トトロに会えただけで感謝すべきだろうか…)。

 これは自分の勝手な考えだが、どんどこ森はもっと探検・生き物ふれあいエリアになってもいいのではと思う。せっかく生い茂った森に囲まれた自然豊かなエリアなのだ。坂道やトンネル、一本橋があって、でこぼこ砂利道があって、蜘蛛の巣くぐれば下り道があって、みつばちブンブン花畑があって、ひなたにトカゲがいてヘビは昼寝しておいてほしいのである。そこを訪れれば全員がいつでもメイになれる。子供のころ夢中で日が暮れるまで外で探検していたあの頃を思い出すことができる。そんなエリアとなったら素敵ではないだろうか?(虫嫌いなジブリ好き層が一気に行かなくなりそうだが)

青春の丘

 「青春の丘」という名前がついているが、九割方「耳をすませば」のエリアである。目玉の地球屋ももちろんそうだし、その手前のロータリーやバス停も聖地巡礼のスポットとして名高い作中の舞台だ。日本で暮らしているとありふれた風景にも見えるが、他の展示エリアに比べてここだけ空気中のエモさの濃度が若干高い。ジブリの作品を追っていると、ハウルや千と千尋のような非日常というか、割と派手目のファンタジーがどうしても目立ってしまう。だが本当に後世に残していくべきは、「耳をすませば」のような割と現実寄りで、いつでもその作品を見れば当時の日本の生活感が一撃で想起できるような作品なんじゃないかと思えてくるのだ。

プレミアムではないのでもちろん中まで見ることができなかったのだが、地球屋の中では数々のアンティークや聖司が見習いとして学んでいたヴァイオリンの工房が見られるのだそう。映像で見ても地球屋の内装がお洒落で素晴らしかったことを考えると、中をみることができなかったのは残念である。ただし、この中で雫と聖司の甘酸っぱい物語が展開されていたかと強く想像してしまうと非リア勢は爆発してしまうかも知れないので、やはり外装を眺めておくにとどめた方がいいのかも知れない。

魔女の谷

 正直ハウル以降ちゃんとジブリを見ていない俄なので、入口であんぐり口を開けているのが誰なのかさっぱりわからなかったのだが、「アーヤと魔女」に出てくる魔女なのだそう。そこをくぐり抜けると、他とは一風変わった異世界が広がっている。大倉庫を除いたらたぶん一番充実しているエリアなんじゃないだろうか?敷地内にはキキのお店もあるしソフィーの帽子もあるし、なぜかパズーの家らしきものまである(魔女関係あったかな…?)。展示の充実っぷりから、確かにジブリにおいて魔女の登場回数は結構多いなと気付かされるのである。

 魔女の谷における展示の多さに目移りしてしまうが、目当てはやはりハウルの動く城だろう。今回、ハウルの動く城の実物を見るためだけにジブリパークへ足を運んだと言っても過言ではない。想像はしていたものの、実際に近くに寄ってみると存在感と再現度が凄い。「人生のメリーゴーランド」がBGMとして流れておりいい雰囲気だなと思っていたが、背後では同時にメリーゴーランド(物理)が回っていてこれがまた良いのだ。ジブリパークをあとにしてから気づいたことだが、1時間に1回煙を吐く仕様になっていたらしい。なるほど、芸が細かい。

 ちなみに近い将来技術が進歩して、ハウルの動く城が現実になったらどうなるのだろうか?今我々が住んでいる家に脚が生えて、それが動き回るのである。作中に登場する例のどこでもドアみたいなやつは多分実現不可能なのだろうが、家に脚なりキャタピラなりを搭載して動かすくらいはできそうである。ちなみに「いや、物理的に考えて作中のあんな細脚であの巨体を支えられるわけ無いだろう」と主張するような、どてもめんどくさいマジレス芸人の理系諸君はからんでこなくても良い(特大ブーメラン)。家が動くようになってくれれば、まず車や鉄道など、他の移動手段が不要になる。寝ている間に移動してくれるのだから、会社に行くにしろ学校に行くにしろ、すべて玄関からでればすぐ目の前が目的地だ。既存の家が動くとなると地上はごったがえしそうだが、この世のすべての鉄道車両が占めていた面積が一気に浮くのだからギリギリ耐えるんじゃないかと思っている。家庭でルンバ様が動けるような動線を確保する要領で、動く城のそれを確保してやる必要があるから、線路もハイウェイも取っ払ってしまって、何もない更地にしてしまう。かつ、動く城の動力として魔力に頼るわけにはいかないので、数kmおきに動く城の充電ドックだけ用意しておく。あれ、もしかして凄くエコなのでは!?将来ドラえもんの次くらいに実現してほしい技術だ。

もののけの里

 「もののけの里」という名前をつけてしまった時点で、その中でできる展示作品ほぼ一択なんよ。とも思ったが、これはこれで趣深い。敷地内にはひと昔前の日本の農村風景がコンパクトにまとめられている。ついでに次はぜひとも湯もみを構えて「私にもやらせてくれないか」とアシタカさながらに参加できるゾーンができあがっていることを期待する(確実に要らない)。

 もののけの里でとりわけ目をひいたのはタタリ神だ。そう、もののけ姫の冒頭から登場している、みんなのトラウマである。なんならあいつのせいで「もののけ姫って面白いけどあいつまた見るの嫌やな…」と、なぜかもののけ姫自体に否定的になってしまったほどだ。実物を見ればその禍々しさも画面の中で見る時の数倍。そのキモい見た目だけでなく、作中のスピードもそういえばキモかった。登場するヤックルはざっくりモデルがカモシカで、そのカモシカが走るスピードは30~40km/h。その全力ヤックルとほぼ並走できているタタリ神。つまりあいつはもし動いたら40km/hもの速さで我々に対して突っ込んでくるのだ。アシタカ、そなたはこんなえげつないバケモンと戦っていたのか…。

終わりに

 これだけ一日中遊べるジブリパークもまだまだ発展途上だとは。実際にその世界観を体験してみないと分からないジブリのこだわりがいくつもある。金曜ロードショーで既にいやというほど流しているかもしれないが、こんな感じで3Dでも後世に是非残して欲しい。


それでは。

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