子供の頃に平気で触れていた昆虫たちが大人になって触れなくなるのはどうしてだろう?別にやることが増えて、しばらく昆虫に触れない期間が続くからだろうか。それとも、過去に何かひどい目に合わされたトラウマが原因だろうか。かくいう自分も、昆虫には比較的抵抗のない人間(と思っている)だが、有毒の昆虫が近くにいる時は少々ぴりついた雰囲気になる。しかし「あの虫が嫌いだから自分に近づけたくない」とか「あんな虫は絶滅したら良い」という傲慢な考えが浮かんで来てしまうのは、おそらく昆虫の功績と、その偉大さを認知していないからに他ならない。本書を読めば、表紙に書いてある「昆虫たちは今日も地球を回す」という言葉は過言ではないということが分かるのではないだろうか。

本記事のサマリー:
- 本書は昆虫好きにとっても新発見が沢山
- 昆虫って出会う場所で印象変わるよね
- 昆虫を嫌いになる理由は「都市化」にある
読んだ本
- タイトル:昆虫の惑星
- アンヌ・スヴェルトルップ=ティーゲソン
感想云々
豊富な雑学を有する本書
本書を読んでまず驚くのは内蔵されている知識量だ。240ページ弱という決して文庫本のボリュームとしては多くない一冊の中に、長すぎず短すぎず、昆虫にまつわるトリビアがたくさん詰め込まれている。自分は幼い頃に昆虫図鑑を舐め回すように何周もしていたし、昆虫館にも積極的に足を運んでいた。そんな経緯もあって、「昆虫についてはちょっと詳しい」という謎の自負があった。ところが本書で触れるものは自分にとって9割型が新しい知識であった。
何より、それぞれのトリビアの見出しもインパクトが強い。「ハエもやけ酒を飲む」とか「シェイクスピアの戯曲、ベートーベンの交響曲、リンネの花の素描、ガリレオの太陽と月の絵、アメリカ独立宣言に共通するものは昆虫」とか、タイトル一発だけで食いつきたくなるようなフレーズが本書の中で飛び交っている。
どれも驚くべき知識なのだが、個人的にとりわけ驚く内容というのは共通して「人間がやるようなことを昆虫がやっている」と知った時だと気付かされる。昆虫というのは本来、本能の赴くままに生きている生物であり、人間とは一線を画して相容れない関係にあるように思っていた。そんな昆虫達が、あたかも理性を持っているかのように振る舞う。そんな新しい発見をするたびに、昆虫に対する興味がより増していくのである。
遭遇する場所で変わる昆虫の印象
昆虫が嫌いでなくとも、その昆虫を見かける場所次第で感じ方が違う場合もある。例えば、自分はクモを屋内外いずれで見かけても嫌悪感を示すことはな。何なら有毒グモ以外の種は益虫の中の益虫だと思っているので、屋内で見かけたら「いつもパトロールありがとうございます」と深々とお辞儀をするレベルである。
ところがGは別だ。
屋外でGを見かけても何とも思わなくとも(自分だけ?)、部屋の中で遭遇すると、ジブリでよく見るような表現の如く、ブワッと全身の毛がよだつレベルで警戒してしまう。試しにGがかわいくデフォルメされた漫画を読んでみたり、彼らのフォルムになぞらえて「ランボルギーニ」と呼んでみたりしたが、遂に得意にならなかった。彼らは特に毒を持っているというわけではないのに。
このギャップは何なのだろうと長年思っていたのだが、この疑問について調べてみると、東大が最近の研究で明らかにしてくれているようだ。
昆虫を嫌いになる理由
ずばり、昆虫を嫌いになるのは「都市化」が原因なのだそう。ただし、その都市化が起因して昆虫嫌いになる理由は2通りある。
1つ目は、屋外よりも屋内で昆虫を見かける機会が増えることによって嫌悪感が増えてしまう、という経路である。つまり、いつのまにか「感染リスクを持っている(と錯覚している)昆虫が近くにいて怖い」というマインドになってしまうということだ。
2つ目は、自然体験が減ることによって、虫を区別できなくなるが故のエラーマネジメントの発動によるものだ。つまり、「カブトムシってよく知らないけど、なんだか見た目がGっぽいし有害なんじゃね?」みたいな、区別がつかない故のよくわからない錯覚を起こす人が増えてしまっているということだ。
こうして昆虫のことを嫌いになる仮説と、その実証結果が仰々しく挙げられているのだが、「さっさと外に出ろ」が結論であるようにも思える。だが都市化が進んだ今では、そんな簡単な話でもないのだろう。
昆虫を嫌いになる1つ目のプロセスに対し、「屋内で見ないようにする」という対処は中々実現が難しそうだ。昆虫はあの手この手で屋内に入ってこようとするからである。だが2つ目の「自然体験が減る故の知識不足」は、本書のような昆虫にまつわる面白知識本がより拡散されれば解消できそうな問題ではある。単にその分野に触れないが故の食わず嫌いをなくすためにも、ポジティブな昆虫の知識を広めていくべきなのだ。我々がこの星を支配しているのではなく、昆虫様の支配下で住まわせてもらっている。そう認識を改めねばなるまい。
終わりに
最近メディアで、地球の温度上昇により今後蚊が大量発生するとの情報を聞いた。増えに増えた蚊たちは人間達の血を吸い続け、それに伴って感染症も爆発的に増えていくらしい。悲しい話だが、それも人間がこの星を好き勝手した因果応報のようにも思える。例え我々人間が近々淘汰されることになっても、それは地球の生命活動の一環だと思って、抵抗せず受け入れるしかないのかもしれない。
それでは。